CRASH SIMULATION COURSE

衝突シミュレーションを学ぶ

ミリ秒の世界で車体が潰れ、エネルギーが形を変える——その現象を計算機の中で再現する技術を、一般的な有限要素法(FEM)から出発して、衝突解析ならではの理論(陽解法・接触・ひずみ速度・エネルギー検証)まで、数式と図解で丁寧にたどる入門コースです。

想定読者:材料力学と微積分の初歩を学んだ大学生・初学者 各章:15〜30分 + ミニ演習

全体マップ

本サイトは3部構成です。基礎編で一般の構造解析と共通する土台を固め、衝突コア編(本サイトの主役)で衝突解析ならではの理論に踏み込み、実務・検証編で「正しく動かし、正しく疑う」方法を学びます。

テーマ
基礎編 第1章 / 第2章 / 第3章 導入・力学のおさらい・FEMの基礎と「解法の分岐点」。一般構造解析との共通土台。
衝突コア編 ★ 第4章 / 第5章 / 第6章 陽解法の時間積分・接触アルゴリズム・材料モデル。衝突解析を衝突解析たらしめる理論の心臓部。
実務・検証編 第7章第10章 要素技術・モデリング実務・結果の検証・応用事例。計算を正しく走らせ、結果を正しく疑う。
実践編 第11章 オープンソースの陽解法ソルバー OpenRadioss を実際に動かす:入力デッキの構造・実行ログの読み方・時刻歴とアニメーションの後処理。1〜10章の理論を自分の手で確かめる。

読み進めルート

最短ルート 1 → 3 → 4 → 5 → 9

衝突解析の骨格だけを最速で掴む。「なぜ陽解法か」「接触とは何か」「結果をどう疑うか」。

標準ルート 1 → 2 → … → 10

第1章から順に。前提知識は各章ヘッダに明記してあるので、迷ったらこのルート。

理論重視ルート KEY EQUATION + 演習

各章の「キーとなる式」ボックスとミニ演習を先に解き、詰まった節に戻る。

このサイトの読み方

基礎編 ─ 第1章

導入:なぜ衝突をシミュレーションするのか

学習目標
衝突解析が「何を予測する技術」かを知り、実車試験との関係を理解する。
前提知識
特になし。高校物理の力学のイメージがあれば十分。
読了目安
約15分

1.1 衝突現象の特徴 —— 短時間・大変形・非線形・接触

自動車の前面衝突は、車体が壁に触れてから乗員の運動が落ち着くまで、わずか100〜150ミリ秒で終わります。まばたき(約300ms)よりも短いこの時間の中で、次のことが同時に起こります。

この4つの特徴こそが、後の章で学ぶ陽解法(第3・4章)・接触アルゴリズム(第5章)・ひずみ速度依存の材料モデル(第6章)という「衝突解析ならではの技術」を要求します。本章ではまず現象の時間感覚を掴みましょう。

t = 0 ms

図1-1:前面衝突のタイムライン(模式図)。高速度カメラの映像を1コマずつ送るように、スライダーで時間を動かしてみてください。上段は車両の潰れ、下段は車体減速度の時刻歴(クラッシュパルス)です。全体が約100msで終わることに注目。

1.2 応用分野 —— 衝突解析はどこで使われているか

分野解きたいこと特徴
自動車の衝突安全車体の潰れ方・乗員の傷害値・歩行者保護本サイトの主軸。法規・アセスメント試験(第10章)と直結。
落下試験スマートフォン・家電・輸送容器の落下時の破損数ms〜数十msの現象。姿勢(落ち方)のばらつき評価が鍵。
鳥衝突(バードストライク)航空機の風防・エンジンファンへの鳥の衝突衝突体(鳥)がほぼ流体のように振る舞う超高速変形。
弾道・防護装甲・防護材の貫通限界マイクロ秒スケール。材料の破壊モデル(第6章)が支配的。
プレス成形など板金の成形性(衝突ではないが同じソルバーを使う)陽解法は「強い非線形+接触」全般の道具でもある。

共通するのは「短時間に大きく変形し、接触を伴う」こと。つまり本サイトで学ぶ理論は、自動車に限らず「モノがぶつかる現象」一般に使えます。

1.3 実車試験 vs 仮想試験

「実物をぶつけて測ればいいのでは?」——もちろん最終確認は実車試験で行います。しかし開発の途中では、シミュレーション(仮想試験)に大きな利点があります。

実車試験シミュレーション
コスト・期間試作車1台を破壊。試作費と準備期間が必要。計算資源のみ。設計変更のたびに何度でも。
観察できる量センサーを付けた点・高速度カメラに映る面だけ。全要素の応力・ひずみ・エネルギーを任意時刻で観察可能。
再現性1回ごとに微妙に条件が変わる。同じ入力なら同じ結果。条件の振り分け(パラメトリック検討)が容易。
限界現実そのもの(=正解)。モデル化の仮定の範囲でしか正しくない。材料データ・接合部・破断などの再現が課題。
⚠ 最初に覚えてほしいこと

シミュレーションは実験の代わりではなく相棒です。解析は「試験前に設計の当たりを付け、試験結果を説明する」ために使い、モデルは必ず実験と突き合わせて検証します(第9章)。「計算が回った=正しい」ではありません。この疑いの目を、本サイト全体を通じて養っていきます。

1.4 主要ソフトの位置づけ

衝突解析の商用ソルバーとして広く使われているのは次の4つです。名前だけ覚えておけば、文献や求人票が読めるようになります。

いずれも中身は本サイトで学ぶ陽解法・接触・材料モデルの組み合わせです。理論を一度理解すれば、どのソフトに触れても「設定項目が何を意味するか」が読み解けるようになります。

✏ ミニ演習 1 ── この現象は静解析で解けるか?

「静解析」=荷重と釣り合った変形を時間を追わずに求める、通常の構造解析。それぞれ静解析で扱えるか判断してください。

Q1. 本棚に本を並べたときの棚板のたわみ

荷重は一定で、変形は小さく、時間の要素がありません。典型的な線形静解析の問題です。

Q2. スマートフォンを床に落としたときの画面ガラスの応力

数msの衝撃で応力波が伝播し、接触・大変形を伴います。慣性力が支配的なので動的(陽解法)解析の出番です。

Q3. 自動車が時速55kmで壁に正面衝突したときの車体変形

短時間・大変形・非線形・接触の4拍子が揃った、本サイトの主役です。慣性力(減速度×質量)こそが構造を潰す力の源なので、時間を追う動的解析が不可欠です。

Q4. 車体をゆっくり(数分かけて)プレスで押し潰す圧壊試験

現象は準静的(慣性力がほぼゼロ)ですが、大変形・座屈・自己接触があるため陰解法の静解析では収束が困難になりがちです。実務では陽解法を「ゆっくり押す動的解析」として流用することが多い——この理由は第3章で分かります。
基礎編 ─ 第2章

連続体力学と動力学のおさらい

学習目標
衝突で効いてくる「大変形」と「保存則」を再確認し、運動方程式の各項の意味を言えるようになる。
前提知識
材料力学の初歩(応力・ひずみ・ヤング率)、微分の基本。
読了目安
約25分

2.1 応力とひずみ —— 公称値と真値の違い

材料力学で習う応力・ひずみは、多くの場合公称応力・公称ひずみ(工学応力・工学ひずみ)です。長さ L0、断面積 A0 の棒を力 F で引っ張って長さ L になったとき:

σn = FA0,  εn = LL0L0

これは「変形前の寸法で割った」量です。変形が数%以下なら問題ありませんが、衝突では部材が50%も潰れ、断面積も大きく変わります。そこで「いまこの瞬間の寸法」を基準にした真応力・真ひずみを使います。

KEY EQUATION ── 真応力と真ひずみ
σ = FA,  ε = ∫LL dll = ln LL0

読み方:真応力は「現在の断面積 A」で割る。真ひずみは伸びの増分 dl を「その瞬間の長さ l」で割って積み上げる(だから対数が出てくる)。公称値との換算は、体積一定の塑性変形なら σ = σn(1 + εn)、ε = ln(1 + εn)。

数値を入れると差が実感できます。公称ひずみ 5% なら真ひずみは ln(1.05) ≈ 4.9% でほぼ同じ。しかし公称ひずみ 100%(長さ2倍)では真ひずみは ln 2 ≈ 69% と大きくずれます。衝突解析の材料データ(第6章)は基本的に真応力−真ひずみで入力するので、この換算は実務でも毎回登場します。

2.2 大変形・大回転 —— 微小変形の仮定はどこで破れるか

微小変形理論は、次の2つを暗黙に仮定しています。

  1. 釣り合い式を変形前の形状で立ててよい(形が変わっても力の向きや腕の長さは変わらない)。
  2. ひずみは変位の1次の項だけで表せる(回転しても伸びていなければひずみゼロ、が近似的に成り立つ)。

衝突ではどちらも成り立ちません。潰れたフロントサイドメンバーは折れ曲がり(大回転)、力の伝達経路そのものが刻々と変わります。剛体回転しただけの要素に「見かけのひずみ」が生じないように、変形を追いかけながら座標系を更新する定式化(有限変形理論)が必要になります。

POINT

幸い、陽解法ソルバーは最初から大変形を前提に作られており、ユーザーが特別なスイッチを入れる必要はほとんどありません。ここで大事なのは「静解析の常識(剛性は一定、重ね合わせ可能)が衝突では通用しない」という感覚を持つことです。荷重を2倍にしても変形は2倍になりません。

2.3 運動方程式 —— すべての章がこの式に帰着する

FEMで離散化した構造の運動は、次の式で表されます。本サイトで最も重要な式です。

KEY EQUATION ── 半離散化された運動方程式
M ü + C + K u = F(t)

読み方:各節点について「慣性力(質量M×加速度ü)+減衰力(減衰C×速度)+内力(剛性K×変位u)=外力F」。u は全節点の変位を並べたベクトル、M, C, K はそれぞれ質量・減衰・剛性行列です。

この式の見方で、解析の種類が整理できます。

2.4 運動量保存とエネルギー保存 —— 検証の伏線

衝突の前後で、外力(タイヤと路面の摩擦など)が無視できるなら運動量は必ず保存します。一方、運動エネルギーは保存するとは限りません。塑性変形や摩擦で熱に変わるからです。

KEY EQUATION ── 2物体衝突の保存則
m1v1 + m2v2 = m1v1 + m2v2
12m1v12 + 12m2v22 = 12m1v12 + 12m2v22 + E吸収

読み方:運動量(上)は常に保存。運動エネルギー(下)は「衝突後の運動エネルギー+変形などで吸収されたエネルギー E吸収」に分配される。完全弾性衝突では E吸収 = 0、完全非弾性(合体)で E吸収 が最大。

実車の衝突は「ほぼ完全非弾性」に近く、失われた運動エネルギーこそが車体の変形仕事=乗員を守るために吸収すべきエネルギーです。そして第9章では、シミュレーション結果の中でこのエネルギー収支が数値的に保存されているかを検証します。ここが崩れている解析は信用できません——保存則は「後で結果を疑うためのものさし」でもあるのです。

図2-1:台車衝突で見る保存則。同質量の台車1(10 m/s)が静止した台車2に衝突します。運動量 p はどちらのモードでも衝突前後で不変、運動エネルギー KE は完全非弾性で半分に減る——減った分(オレンジのバー)が「変形に使われたエネルギー」です。

✏ ミニ演習 2 ── 保存則の計算

質量 1000 kg の車Aが 10 m/s で、静止している質量 1000 kg の車Bに追突する。次の2つの場合について衝突直後の速度と失われた運動エネルギーを求めよ。

  1. 完全弾性衝突の場合
  2. 完全非弾性衝突(AとBが一体になる)の場合
解答を見る

(1) 完全弾性衝突:等質量の弾性衝突では速度が交換され、A:0 m/s、B:10 m/s。運動エネルギーは 50 kJ → 50 kJ で損失ゼロ

(2) 完全非弾性衝突:運動量保存より 1000×10 = 2000×v′、よって v′ = 5 m/s。運動エネルギーは衝突前 ½×1000×10² = 50 kJ、衝突後 ½×2000×5² = 25 kJ。25 kJ(半分)が車体の変形などに吸収される。

この 25 kJ が実車開発でいう「エネルギー吸収量」の正体です。どの部材に・どんな順序で吸収させるかを設計するのが衝突安全設計であり、それを予測するのが衝突シミュレーションです。

基礎編 ─ 第3章

FEMの基礎と「解法の分岐点」

学習目標
FEMの離散化のイメージを掴み、なぜ衝突は陽解法で解くのかを自分の言葉で説明できるようになる(本サイト最大のハブ)。
前提知識
第2章(運動方程式 M ü + C u̇ + K u = F)。
読了目安
約30分

3.1 離散化とは —— 連続体を節点と要素に刻む

実物の車体は無限の点からなる連続体で、その変形は偏微分方程式で記述されます。これをそのまま解くことはできないので、FEMでは構造を要素(element)という小片に分割し、節点(node)の変位だけを未知数にします。要素内部の変位は、節点の値から補間して表す——これが離散化です。

刻んだ結果、未知数は「全節点の変位ベクトル u」という有限個の数字になり、偏微分方程式は第2章の運動方程式(連立の常微分方程式)に姿を変えます。フルカーモデルなら未知数は数百万〜数千万自由度です。

3.2 形状関数・質量行列・剛性行列のイメージ

要素内の変位を節点値からどう補間するかを決めるのが形状関数 N です。例えば2節点の棒要素なら、要素内の変位は両端の値を直線でつないだもの:

u(x) = N1(x) u1 + N2(x) u2

形状関数が決まると、エネルギーの釣り合い(仮想仕事の原理)から各行列が機械的に導かれます。イメージで押さえましょう。

3.3 陰解法(Implicit)—— 釣り合いを毎ステップ「解く」

運動方程式を時間方向に進める方法は大きく2系統あります。まず陰解法。時刻 tn+1 の状態を求めるのに、時刻 tn+1 自身の釣り合い式を使います:

M ün+1 + K un+1 = Fn+1

未知数 un+1 が式の中に入っているので、毎ステップ大規模な連立方程式を解く必要があります。さらに非線形問題では剛性が変位に依存するため、Newton-Raphson法で「解いては修正」を収束するまで繰り返します。

3.4 陽解法(Explicit)—— 加速度から直接「前進」する

陽解法は発想を変えます。いま分かっている時刻 tn の情報だけで加速度を求め、次の時刻へ進みます:

KEY EQUATION ── 陽解法の1ステップ
ün = M−1 (FnextFnint)

読み方:「加速度 =(外力 − 内力)÷ 質量」。ニュートンの運動法則そのものです。M が対角行列(集中質量)なので、M−1 は各成分の割り算にすぎず、連立方程式を解く必要がない。得られた加速度で速度と変位を少しずつ前進させます(具体式は第4章)。

図3-1:陰解法と陽解法の時間の進み方(模式図)。陰解法(上)は大きな一歩ごとに立ち止まって釣り合いを反復計算(⟳)で解き、強い非線形に出会うと反復が増え、最悪収束に失敗します(✕)。陽解法(下)は極小の歩幅で休まず前進し続けます。1歩は軽いが歩数は膨大——この対比がすべての出発点です。

3.5 使い分けの原則

2つの方式の得意分野は歩幅の性質から自然に決まります。

陰解法(Implicit)陽解法(Explicit)
1ステップのコスト重い(連立方程式+収束反復)軽い(割り算と足し算)
時間刻み Δt大きくできる(無条件安定)臨界値以下に制限(〜µs)
強非線形・接触収束困難に陥りやすい頑健。むしろ得意
得意な問題静解析、振動、長時間の緩やかな動的問題衝突・落下・貫通・座屈・成形など短時間強非線形

判断の目安は「現象の時間」と「非線形の強さ」です。ミリ秒の現象なら、小さなΔtでも総ステップ数は現実的で、陽解法の頑健さが最大限生きます。逆に数秒〜数分の現象を陽解法で解くとステップ数が天文学的になります(準静的問題への流用テクニックは第4章・第8章で触れます)。

⚙ OpenRadiossで確かめる

OpenRadioss(第11章)は、本章でいう陽解法ソルバーそのものです。モデルを読み込んで検査する Starter と、時間積分ループを回し続ける Engine の2つの実行体に分かれており、Engineが刻む1サイクルが図3-1下段の「微小な一歩」に相当します。陰解法ソルバーと違って収束判定の設定項目が存在しないことに注目してください——釣り合いを「解く」工程がなく、ただ前進するだけだからです。実行中のコンソールに毎サイクル流れる行が、その一歩一歩の記録です。

✏ ミニ演習 3 ── 陰解法か、陽解法か

Q1. エンジンマウントブラケットに定常荷重をかけたときの応力評価

時間依存がなく非線形も弱い。K u = F を1回解けば済む陰解法の独壇場です。

Q2. 時速64kmオフセット前面衝突(現象時間 約120ms)

短時間・大変形・接触多数。陽解法の設計目的そのものです。

Q3. 車体の固有振動数の計算(モード解析)

固有値問題は行列を組んで解く陰解法系の解析です。時間を前進させる問題ですらありません。

Q4. 薄肉アルミ缶を軸方向にゆっくり押し潰す(多段座屈・自己接触あり)

現象は遅くても、座屈の連鎖と自己接触で陰解法は収束が破綻しがち。実務では速度を仮想的に上げた陽解法(準静的解析)が定番です。ただし慣性の影響が出ていないか運動エネルギーの監視が必須(第9章)。
衝突コア編 ─ 第4章 ★

陽解法の時間積分 —— 理論の心臓部

学習目標
中心差分法の式を追い、臨界時間刻み(CFL条件)の物理的意味を説明でき、質量スケーリングの効果と副作用を述べられる。
前提知識
第3章(陽解法と陰解法の違い)、テイラー展開の初歩。
読了目安
約30分

4.1 中心差分法 —— 差分近似で次の一歩を求める

陽解法ソルバーの標準的な時間積分が中心差分法です。速度を「半ステップずらした時刻」で定義するのがミソです。時刻 tn で加速度を求めたら:

KEY EQUATION ── 中心差分法(蛙飛び形式)
ün = M−1(FnextFnint)
n+1/2 = n−1/2 + ün Δt
un+1 = un + n+1/2 Δt

読み方:①現在の力から加速度を求める → ②速度を半ステップ先へ更新 → ③変位を1ステップ先へ更新。速度が変位の「ちょうど中間の時刻」に住んでいるので中心差分。誤差は O(Δt²) で、単純な前進差分より1桁精度が良い。3本とも四則演算だけ——連立方程式はどこにも現れません。

新しい変位 un+1 が決まれば、各要素のひずみ → 応力(材料モデル:第6章)→ 内力 Fint が計算でき、また①に戻ります。このループを何十万回も回すのが陽解法ソルバーの一生です。

4.2 条件付き安定性 —— なぜ歩幅に上限があるのか

中心差分法には決定的な弱点があります。Δt を大きくしすぎると、解が物理と無関係に発散するのです。直感的にはこう理解できます:構造の中を情報(応力波)は有限の速さで伝わります。1ステップの間に波が1要素分より遠くへ進んでしまうと、差分式は波を「追い越されて」しまい、つじつまの合わない答えを作り出します。数値のつじつまが破れると、誤差は1ステップごとに増幅され、数十ステップで変位が爆発します。

4.3 臨界時間刻み —— CFL(Courant)条件

KEY EQUATION ── 臨界時間刻みと弾性波速度
Δt ≤ Δtcr = Lec,  c = E/ρ

読み方:「時間刻みは、音速 c が最小要素長 Le を横切る時間より短くせよ」。E はヤング率、ρ は密度。鋼なら c = √(210×10⁹ / 7850) ≈ 5170 m/s。要素長5mmなら Δtcr ≈ 5×10⁻³/5170 ≈ 約1マイクロ秒。実務ではさらに安全係数(0.9倍など)を掛けます。

重要なのは、Δtユーザーが決めるのではなく、メッシュと材料が決めることです。ソルバーは毎ステップ全要素の Δtcr を計算し、その最小値で全体を進めます。

5.0 mm

図4-1:CFL条件のインタラクティブ計算。要素長・材料・質量スケーリングを変えると、音速 c、臨界時間刻み Δtcr、100msの衝突解析に必要なステップ数(=計算コストの目安)がどう変わるかを表示します。要素を半分に細かくするとΔtも半分になり、ステップ数は2倍——3次元では要素数も8倍になるため、細分化のコストは激烈に効きます。

棒の左端に衝撃を与えます

図4-2:要素列を伝わる応力波。左端に与えた衝撃(圧縮波)が音速 c で右へ伝わる様子。色が濃い要素ほど応力が高い状態です。CFL条件は「この波が1ステップの間に1要素を飛び越えないこと」という要請にほかなりません。

4.4 「最小要素が全体を支配する」問題

CFL条件はモデル全体で最も厳しい(=最小の)要素で決まります。100万要素のうち999,999個が5mmでも、たった1個の0.5mm要素が混じれば、全体のΔtは1/10になり、計算時間は10倍になります。

⚠ 実務でいちばん泣かされるポイント

フィレットの角、部品の隅、自動メッシュの「事故」でできた微小要素が1個あるだけで、一晩で終わるはずの計算が10日になります。だからクラッシュ解析者はメッシュ品質チェックで最小要素長(=タイムステップ律速要素)を必ず確認します(第8章)。ソルバーのログに出る「時間刻みを支配している要素番号」は最初に見る場所のひとつです。

4.5 質量スケーリング —— 密度を上げてΔtを稼ぐ

微小要素を作り直せないとき、実務では質量スケーリングを使います。狙いはこうです:

ρk·ρ とすると c = E/(k ρ) = c0k ∴ Δtcr は √k

密度を4倍にすれば音速が半分になり、Δt は2倍——計算時間は半分です。ソルバーには「目標Δtを下回る要素にだけ自動で質量を足す」機能があり、これが広く使われます。

ただしタダ飯ではありません。質量を足すということは慣性力 M ü を偽ることです。速く動く部位に質量を足せば、運動エネルギーも接触力も変わってしまいます。目安として:

「どれだけ質量が足されたか」はソルバーが出力します。added mass を確認しない質量スケーリングは、結果を偽造しているのと同じ——第9章の検証項目に直結します。

⚙ OpenRadiossで確かめる

本章の内容は、OpenRadiossでは次の場所に現れます。

  • CFL条件 —— Δtはソルバーが毎サイクル自動計算します。Engineファイルの /DT/NODA/CST カードの第1項 ΔTsca(通例 0.9)が、本章で述べた「臨界値×安全係数」の安全係数そのものです。
  • 最小要素の特定 —— 実行ログ(.out)の TIME-STEP 列が現在のΔt、ELEMENT 列がいまΔtを支配している要素の番号。4.4の「計算時間を人質に取る要素」を名指しで教えてくれます。
  • 質量スケーリング —— 同カードの第2項 ΔTmin(目標Δt)を下回る節点に質量が自動追加されます。追加量はログの MAS.ERR 列(ΔM/M)で毎サイクル報告されるので、「数%以内」を必ず確認します。

下のミニ演習で手計算したΔtを、第11章で実際のログの TIME-STEP と突き合わせるのが、本章の理想的な卒業試験です。

✏ ミニ演習 4 ── 臨界時間刻みの計算

鋼(E = 210 GPa、ρ = 7850 kg/m³)のシェルメッシュで、最小要素長が 2 mm のモデルがある。

  1. 弾性波速度 c と臨界時間刻み Δtcr を求めよ。
  2. この最小要素にだけ質量スケーリングで密度を4倍にしたとき、Δtcr はいくらになるか。
  3. 解析時間120msに必要なステップ数を(1)(2)それぞれで概算せよ。
解答を見る

(1) c = √(210×10⁹/7850) ≈ 5170 m/s。Δtcr = Le/c = 0.002/5170 ≈ 3.9×10⁻⁷ s ≈ 0.39 µs

(2) 密度4倍 → 音速1/2 → Δtcr は2倍の 約0.77 µs

(3) 120 ms ÷ 0.39 µs ≈ 約31万ステップ。質量スケーリング後は 120 ms ÷ 0.77 µs ≈ 約16万ステップ(半減)。

ステップ数半減はそのまま計算時間半減です。一方でこの要素が高速で運動する部位なら、4倍の密度が慣性力を偽ることも忘れずに。「速くなった分、何を偽ったか」を常にセットで考えるのが質量スケーリングの作法です。

衝突コア編 ─ 第5章 ★

接触アルゴリズム —— 「衝突そのもの」を数値で扱う

学習目標
接触がペナルティ法でどう数値化されるかを理解し、接触剛性の大小が結果と時間刻みに与える影響を説明できる。
前提知識
第4章(時間刻みの制約)。ばねの力 F = k δ のイメージ。
読了目安
約25分

5.1 接触の物理 —— 数値モデルに求められる3つの仕事

FEMの要素と要素は、放っておくとすり抜けます。メッシュは互いの存在を知らないからです。「ぶつかる」という当たり前の物理を実現するために、接触アルゴリズムは毎ステップ次の仕事をします。

  1. 貫入させない —— 面と面が重なったら押し戻す(法線方向の反力)。
  2. 反発・分離を許す —— 押し付けている間だけ力を伝え、離れたらゼロに戻す(引っ張りは伝えない)。
  3. 摩擦を伝える —— 接触面に沿った滑りに抵抗する(接線方向の力)。

第1章で見たとおり「どこがどこに触れるか」は事前に分かりません。だから接触は探索(どこが当たったか)と力の計算(どれだけ押し戻すか)の2段構えになります。まず力の計算から見ましょう。

5.2 ペナルティ法 —— 貫入をばねで罰する

KEY EQUATION ── ペナルティ法の接触反力
Fc = k · δ

読み方:節点が相手面を δ だけ貫入したら、貫入量に比例した反力 Fc で押し戻す。比例定数 k接触剛性。つまり「貫入した分だけ罰金(penalty)を科す仮想のばね」を、当たった場所に瞬間的に差し込みます。

ポイントは、ペナルティ法では微小な貫入を意図的に許していることです。貫入ゼロを厳密に強制する方法(ラグランジュ乗数法)もありますが、連立方程式が必要になり陽解法の軽さを殺すため、衝突解析ではばね1本で済むペナルティ法が標準になりました。「貫入は誤差だが、小さければ実用上問題ない」という割り切りです。

標準

図5-1:ペナルティ接触の1部始終。ブロックが壁に衝突し、貫入 δ(拡大表示)に応じたばね反力で押し戻されます。下は接触力の時刻歴。k が小さいと深く貫入し(結果が甘くなる)、大きいと貫入は浅いが力が鋭く立ち上がりノイズが増えます。

5.3 接触剛性の大小 —— 第4章との危険な連結

接触剛性 k はどう選ぶべきでしょうか。両極端を考えると性質が見えます。

実務のソルバーは、接触する要素の剛性・寸法から「相手の要素と同程度の硬さ」になるよう k を自動計算し、ユーザーはスケール係数(既定値1.0前後)で微調整します。既定値から大きく外す前に、なぜ貫入が起きているか(メッシュ・板厚・速度)を疑うのが正しい順序です。

5.4 接触探索 —— 毎ステップ「どこが当たるか」を探す

力の計算より計算機に厳しいのが探索です。100万節点のモデルで「どの節点がどの面に触れそうか」を毎ステップ総当たりで調べると、組み合わせは10¹²のオーダー——不可能です。そこで2段階に分けます。

  1. 大域探索:空間を格子(バケット)に区切り、同じ・隣の格子にいる相手だけを候補にする(バケットソート)。候補は数個〜数十個に絞られます。
  2. 局所探索:候補の面に対して、節点がどの位置に投影されるか・貫入しているかを幾何計算で厳密に判定する。

大域探索は毎ステップやる必要はなく、数ステップに1回で済ませて高速化します(その間に移動しうる距離を見込んでマージンを取る)。フルカーモデルでは接触処理が全計算時間の3〜5割を占めることも珍しくなく、探索の効率はソルバーの性能そのものです。

5.5 自己接触 —— 自分が自分にぶつかる

衝突特有なのが自己接触です。クラッシュボックスが蛇腹状に座屈すると、同じ部品の面同士が折り重なって接触します。どの面とどの面が触れるか本当に予測不能なので、「モデル中の(指定した範囲の)すべての面を、すべての面に対する接触候補にする」単一面接触(single surface contact)が使われます。現代の衝突解析では、車体全体を1つの単一面接触で包むのが標準的な作法です。

5.6 摩擦 —— クーロン摩擦モデル

Ftμ · Fc

接線力 Ft は摩擦係数 μ × 法線力(接触反力)を超えられず、超えようとすると滑りが始まる——高校物理のクーロン摩擦がそのまま使われます(静摩擦と動摩擦を分け、滑り速度で遷移させる拡張が一般的)。摩擦で散逸したエネルギーはすべりエネルギーとして集計され、第9章のエネルギー収支の1項目になります。

⚙ OpenRadiossで確かめる

本章の接触は、OpenRadiossでは /INTER/TYPE7 カード1枚に凝縮されています。

  • ペナルティ剛性 k(5.2〜5.3) —— スケール係数 Stfac(既定値1.0)。図5-1で試した「大きすぎ/小さすぎ」のトレードオフを、この1つの数字で調整します。
  • 摩擦(5.6) —— Fric にクーロン摩擦係数 μ を与えます(鋼板同士なら0.1〜0.2が目安)。
  • 単一面接触(5.5) —— 車体全域を1つのサーフェスとして指定すれば、自己接触を含む「全部入り」の接触になります。板のフチ同士は /INTER/TYPE11 を併用。
  • 初期貫入対策(第8章の伏線) —— Inacti=6 が定番設定。開始時点の貫入分だけギャップを局所的に縮め、初手の爆発的な反力を防ぎます。

接触に蓄えられた・散逸したエネルギーは時刻歴出力で監視できます——第9章のエネルギー検証で「接触Eが負に沈んでいないか」を見るのはこの出力です。→ 第11章

✏ ミニ演習 5 ── ペナルティ剛性の感覚

Q1. 接触スケール係数を1.0から0.1に下げた。貫入量はどうなる?

同じ接触力を出すのに必要な貫入は δ = F/k。k が1/10なら δ は約10倍。めり込みが目視できるレベルになったら k 不足(またはモデル不備)のサインです。

Q2. 接触スケール係数を10倍にしたら計算が遅く・ノイジーになった。主因は?

硬いばねは高振動数を生み、安定に必要な Δt を引き下げます(下げなければ接触力が発振)。接触剛性とCFL条件(第4章)は常にトレードオフの関係にあります。

Q3. 蛇腹状に潰れるクラッシュボックスの解析に必須の接触タイプは?

蛇腹座屈では同一部品の面同士が折り重なります。自己接触を定義し忘れると、壁面同士がすり抜けて潰れ残量(エネルギー吸収量)を大きく誤ります。
衝突コア編 ─ 第6章 ★

材料モデル —— ひずみ速度と破壊

学習目標
衝突特有の材料挙動(ひずみ速度依存・破壊)を理解し、Johnson-CookとCowper-Symondsの式の各項が何を表すか説明できる。
前提知識
第2章(真応力・真ひずみ)、応力−ひずみ線図の読み方。
読了目安
約30分

6.1 弾塑性の基礎 —— 降伏と硬化

金属は降伏応力 σy までは弾性(除荷すれば元に戻る)、それを超えると塑性変形が始まり、変形が永久に残ります。衝突でエネルギーを吸収するのは、まさにこの塑性変形です。降伏後も応力が上がり続ける現象を加工硬化と呼び、材料データでは「真応力−塑性ひずみ」の硬化曲線として与えます。よく使われる近似が指数硬化則です:

σ = A + B εpn  (A:降伏応力、B, n:硬化係数・硬化指数、εp:相当塑性ひずみ)

多次元の応力状態では、相当応力(von Mises応力)が降伏応力に達したかどうかで塑性化を判定します。ここまでは静的な弾塑性解析と共通です。衝突ならではの話はここからです。

6.2 ひずみ速度依存性 —— 速く変形するほど強くなる

金属をゆっくり引張ると 200 MPa で降伏する材料が、衝突のような高速変形では 300 MPa 出る——多くの金属(特に軟鋼)は変形速度が上がると降伏応力が上がる性質を持ちます。変形の速さはひずみ速度 ε̇ = dε/dt(単位 1/s = s⁻¹)で測ります。目安:

現象ひずみ速度の目安
材料試験機での静的引張試験10⁻³ 〜 10⁻² s⁻¹
自動車の衝突(車体部材)10⁰ 〜 10³ s⁻¹
弾道・爆発10⁴ s⁻¹ 以上

つまり衝突時の材料は、カタログの静的試験値より数十%も強いことがあります。これを無視すると、車体は実際より弱く潰れすぎる解析結果になります。逆に言えば、静的データしか入れていない衝突解析は系統的に間違う——ひずみ速度依存性は衝突解析の材料モデルに必須の要素です。

6.3 構成則の例 —— Johnson-Cook と Cowper-Symonds

ひずみ速度(と温度)の効果を取り込んだ代表的な構成則を2つ紹介します。どちらも「静的な硬化曲線に、速度に応じた倍率を掛ける」という構造です。

KEY EQUATION ── Johnson-Cook モデル
σ = [A + B εpn] [1 + C ln ε̇*] [1 − T*m]

読み方:3つの括弧の積。第1項=加工硬化(6.1の式そのもの)、第2項=ひずみ速度硬化ε̇* は基準ひずみ速度で無次元化したひずみ速度。速いほど強い、対数なので効きは緩やか)、第3項=温度軟化T* は室温〜融点で無次元化した温度。熱くなるほど弱い)。効果が積で分離されているので実験からの同定が容易で、金属の高速変形の標準モデルとして広く使われます。

KEY EQUATION ── Cowper-Symonds モデル
σdσ0 = 1 + (ε̇C)1/p

読み方:動的降伏応力 σd は静的値 σ0 の「1+(ひずみ速度/C)^(1/p)」倍。Cp は材料定数で、軟鋼の古典値は C = 40.4 s⁻¹、p = 5。この式は ε̇ = C のとき倍率がちょうど2になる、と読むと覚えやすい。シンプルなので衝突ソルバーの弾塑性材料モデルのオプションとして定番です。

0.001 s⁻¹(静的) 動的倍率 ×1.00

図6-1:ひずみ速度と応力−ひずみ曲線(軟鋼、Cowper-Symonds C=40.4, p=5)。グレーの破線が静的試験の曲線。スライダーでひずみ速度を上げると、曲線全体がせり上がります。衝突域(10⁰〜10³ s⁻¹)では静的値の1.5〜2倍以上になることに注目。

6.4 破壊・損傷と要素削除

変形が限界を超えると材料は破断します。FEMのメッシュは「裂ける」ことができないので、衝突解析では破壊条件を満たした要素をモデルから削除する(要素削除)のが最も一般的な扱いです。最も簡単な条件は「相当塑性ひずみが限界値 εf に達したら削除」。より精密には、応力状態(三軸度)によって破断ひずみが変わることを考慮した損傷モデル(Johnson-Cook破壊則、GISSMOなど)が使われます。

⚠ 要素削除の副作用
  • 質量とエネルギーが消える —— 削除された要素の分だけ保存則が崩れる。削除量の監視が必要。
  • 結果がメッシュサイズに依存する —— 破断は局所化現象なので、要素が細かいほど早く破断しやすい。破断ひずみは使用メッシュサイズとセットで校正(キャリブレーション)するのが実務の作法。
  • 接触面が消える —— 削除で新しく露出した面の接触の扱いに注意。

6.5 エネルギー吸収材 —— フォームとハニカム

金属以外にも、衝突解析には「潰れることが仕事」の材料が登場します。バンパー内のエネルギー吸収フォーム、アルミハニカム(衝突試験のバリアそのもの)、シートのウレタンなどです。これらは長い応力プラトー(ほぼ一定の応力で大きく圧縮変形する領域)を持ち、少ない反力で大きなエネルギー E = ∫σ dε を吸収します。圧縮試験の応力−ひずみ曲線をそのまま入力する専用材料モデルが各ソルバーに用意されています。密度が低く音速も遅いため、意外にも時間刻みを律速しにくいという実務上の性質も覚えておくと便利です。

⚙ OpenRadiossで確かめる

本章の構成則は、OpenRadiossの材料カードにそのまま並んでいます。

  • /MAT/LAW2 のパラメータ A, B, n が6.1の硬化則 σ = A + B εpnCε̇0 が6.3のひずみ速度項 [1 + C ln(ε̇/ε̇0)] です。Cε̇0 を空欄にする=速度効果ゼロで、「実験より柔らかく潰れすぎる解析」(第9章9.4)が現実になります。
  • 破壊と要素削除(6.4) —— 同カードの εmax(破断ひずみ)に達した要素が削除されます。この値はメッシュサイズとセットで校正するのでした。より精密には /FAIL/JOHNSON 等の破壊カードを重ねます。
  • 実測カーブがあるとき —— /MAT/LAW36 なら真応力−塑性ひずみ曲線を表(/FUNCT)で直接入力でき、ひずみ速度ごとの曲線群で速度依存も表現できます。図6-1のスライダーで見た「曲線群」を、そのまま入力する形です。

下の演習で計算する動的降伏応力550MPaは、LAW2に軟鋼の定数を入れて高速で潰せば、実際に応力コンターとして観察できます。→ 第11章

✏ ミニ演習 6 ── 動的降伏応力の計算

静的降伏応力 σ0 = 250 MPa の軟鋼(Cowper-Symonds:C = 40.4 s⁻¹, p = 5)が、衝突中にひずみ速度 ε̇ = 100 s⁻¹ で変形している。動的降伏応力 σd を求めよ。

解答を見る

倍率 = 1 + (100/40.4)1/5 = 1 + (2.475)0.2 ≈ 1 + 1.20 = 約2.2

σd ≈ 2.2 × 250 MPa ≈ 550 MPa

静的値の2倍以上です。古典的なCowper-Symonds定数(軟鋼)は速度効果を強めに見積もる傾向があり、現代のハイテン材ではもっと穏やかですが、「衝突中の材料はカタログ値よりずっと強い」という感覚はこの計算で掴めます。この差を入れずに解析すると、部材は実際より潰れすぎ、乗員室への侵入量を過大評価(または部材の反力を過小評価)します。

確認:ひずみ速度依存性を入れ忘れた衝突解析で起こりがちなのは?

実材料は高速変形で強くなるのに、モデルは静的の弱いままだから、解析の部材は実物より弱い=潰れすぎます。実験と合わないときに最初に疑うべき項目のひとつです。
実務・検証編 ─ 第7章

要素と数値的な落とし穴

学習目標
クラッシュ解析で多用される要素の特徴と、低減積分が生むアワーグラスモードの正体・対策を理解する。
前提知識
第3章(形状関数・剛性行列)、第4章(計算コストの感覚)。
読了目安
約20分

7.1 シェル要素 —— 板金モデルの主役

車体はほとんどが薄板(板厚0.6〜2mm程度)でできています。薄板を厚み方向にもソリッド要素で刻むと要素数が爆発し、しかも極薄の要素がΔtを殺します(第4章)。そこで「面としてモデル化し、板厚は要素の属性として持つシェル要素が主役になります。面内の伸縮+曲げ+横せん断を扱い、板厚方向には積分点を数点(多くは5点)置いて、曲げによる表裏の応力差を表現します。

衝突解析の標準は Belytschko-Tsay(BT)シェル。面内1点積分(後述の低減積分)で計算が非常に軽く、大変形に強い定式化です。「速いが、アワーグラス制御が前提」という性格を持ちます。精度が欲しい部位には完全積分に近いタイプ(Bathe-Dvorkin系など)を使い分けます。

7.2 低減積分とアワーグラスモード —— 偽の変形

要素の剛性・内力は要素内部の数点(積分点)で応力を評価して作ります。積分点を減らす(低減積分、4節点要素なら中心の1点だけ)と計算は数倍速くなり、しかも過剛性(せん断ロッキング)も緩和される——良いことずくめに見えます。しかし代償があります。

中心1点だけで見ていると、「積分点ではひずみがゼロなのに、要素は変形している」モードが存在してしまいます。4節点が交互に互い違いに動く、砂時計(hourglass)のような変形です。このモードは内力を生まない=剛性ゼロなので、ひとたび励起されると抵抗なく成長し、メッシュがジグザグに崩れていきます。これがアワーグラスモード(ゼロエネルギーモード)です。

図7-1:アワーグラスモードの成長と制御。低減積分要素のメッシュに擾乱を与えたときの様子。「制御なし」では砂時計状のジグザグ変形が抵抗なく成長し、メッシュが崩壊します。「制御あり」では人工的な抵抗力がモードを抑え込みます。中央の点が各要素の積分点——この点では、どちらのモードでもひずみがほぼゼロに見えている、というのが問題の核心です。

対策がアワーグラス制御です。アワーグラス型の変形パターンだけに反応する人工的な剛性または粘性の力を加え、モードの成長を抑えます。ただしこの力は物理には存在しない「作り物」なので、それがした仕事=アワーグラスエネルギーが計算されます。制御を強くしすぎると要素が不自然に硬くなるため、「モードは抑えるが、エネルギーは小さく」が理想です。

POINT ── 実務の合格ライン

アワーグラスエネルギーは内部エネルギーの10%未満(できれば5%未満)が広く使われる目安です。全体で満たしていても、特定の部品に集中していれば、その部品の変形は信用できません。部品別に確認する習慣をつけましょう(第9章で再登場します)。

7.3 ソリッド要素と要素品質

エンジンブロックのような塊、フォームやゴムのような厚みのある材料にはソリッド要素(8節点六面体が基本)を使います。ここでも低減積分+アワーグラス制御の組み合わせが標準です。四面体は自動メッシュしやすい反面、1次要素は硬すぎる(ロッキング)ため、クラッシュでは六面体が好まれます。

要素の「形の良さ」も結果と Δt に直結します。チェックすべき代表指標:

静解析なら多少の悪形状は局所誤差で済みますが、陽解法では悪い要素1個がΔtと安定性を通じて全体を巻き込む——これが衝突解析でメッシュ品質にうるさい理由です。

⚙ OpenRadiossで確かめる

要素定式化とアワーグラス制御は /PROP/SHELL カードで選びます。

  • Ishell=24QEPH)が現在の定番——低減積分の速さを保ちつつ改良型のアワーグラス制御を内蔵した定式化です。Ishell=1/2 系がBelytschko-Tsay型+従来型制御。
  • N=5 —— 板厚方向の積分点数。曲げの塑性化を追うなら5点が定番(7.1)。
  • hm, hf, hr —— アワーグラス制御の強さ(膜・曲げ・ねじり)。強くすればモードは消えますが要素が人工的に硬くなる——まず既定値で流し、エネルギーで判断します。
  • 部品別アワーグラスエネルギー —— /TH/PART で部品ごとの時刻歴を出力すれば、下の演習でやる「全体5%でも部品単位で37%」を実データで検出できます。

同じモデルを Ishell だけ変えて2回流し、変形モードとアワーグラスEを見比べるのが、本章の最良の実習です。→ 第11章

✏ ミニ演習 7 ── アワーグラスの良否判定

Q1. 解析終了時、全体の内部エネルギー 80 kJ、アワーグラスエネルギー 4 kJ だった。この解析は?

4/80 = 5% で全体としては合格圏。ただし次問のとおり、全体値だけで安心してはいけません。

Q2. 同じ解析で、主要な潰れ部材であるクラッシュボックス単体を見ると、内部エネルギー 8 kJ に対しアワーグラスエネルギー 3 kJ だった。どう判断する?

エネルギー吸収の主役部品でアワーグラスが4割近くを占めており、蛇腹座屈の形そのものが偽物の可能性が高い状態です。対策:メッシュ細分化、アワーグラス制御タイプ/係数の変更、完全積分要素への変更など。「全体平均は局所の異常を隠す」——検証の鉄則です。
実務・検証編 ─ 第8章

モデリングの実務ワークフロー

学習目標
衝突解析モデルを組み立てる一連の流れ(メッシュ→境界条件→ソルバー設定→コスト見積り)を掴む。
前提知識
第4章(Δtとコスト)、第5章(接触)、第7章(要素品質)。
読了目安
約20分

8.0 全体の流れ

実務のモデル構築は、おおよそ次の一本道です。各工程がこれまでの章のどこに対応するかを添えます。

工程やること対応する章
① 形状の準備CADから中立面抽出・不要形状(小穴・微小フィレット)の簡略化第7章(Δt律速要素の予防)
② メッシュ作成要素サイズ決定、品質チェック、板厚・材料の割り当て第4・6・7章
③ 結合・接触スポット溶接・ボルト等の結合モデル、接触定義(単一面接触)第5章
④ 境界条件拘束・初速度・剛体壁(バリア)の設定本章 8.2
⑤ ソルバー設定終了時間・出力頻度・質量スケーリング許容値本章 8.3、第4章
⑥ 試走と検証短時間だけ流して初期貫入・エネルギー異常をチェック → 本計算第9章

8.1 メッシュ作成 —— サイズは精度とコストの通貨

要素サイズの決定は衝突解析で最も重い意思決定です。理由は第4章のとおり、サイズを半分にすると要素数が(シェルで)4倍、Δtが半分、計算時間は約8倍になるからです。実務の相場観:

「知りたい変形の波長より十分細かく、それ以外は思い切って粗く」——メッシュは均一である必要はなく、解きたい物理に予算を集中させるのが上手なメッシュです。

8.2 境界条件 —— 拘束・初速度の与え方

衝突解析の境界条件は静解析と発想が異なります。構造はどこにも固定されていない(車は宙に浮いた自由体)のが基本で、代わりに初期条件が主役になります。

POINT ── 初期貫入

組み付け誤差やメッシュ化の丸めで、解析開始時点ですでに面同士が重なっている状態を初期貫入と呼びます。ペナルティ接触は開始直後にこれを「罰し」、いきなり爆発的な接触力が入って部品が吹き飛ぶことがあります。プリプロセッサの初期貫入チェックは必ず流します。

8.3 ソルバー設定 —— 終了時間と出力の設計

8.4 計算コストの見積もり

計算時間はおおよそ次の積に比例します:

計算時間 ∝ N要素 × T終了Δt × 1NCPU

N要素:要素数、T終了t:総ステップ数、NCPU:並列コア数。並列化効率は100%ではないので後半は頭打ちになります。)

例えば200万要素・Δt = 0.8µs・終了時間120ms・128コア並列なら、総ステップ数は15万。1ステップあたりの処理が要素あたり〜µsオーダーとして、数時間〜十数時間のレンジに収まる——という概算が立ちます。ここでも第4章の結論が効いています:コストを決めるのは最小要素。見積もりが合わないときは、まずΔtを支配している要素を探します。

⚙ OpenRadiossで確かめる

本章のワークフローは、OpenRadiossの入力ファイル構成にそのまま対応します。解析条件の設定=以下のカードを書くことです。

本章の工程OpenRadiossのカード備考
単位系の宣言(8.3)/BEGIN宣言するだけで検査はされない。kg–m–s か Mg–mm–s–MPa 系を全データで貫く。
拘束条件(8.2)/BCS節点グループに自由度単位で拘束を指定。「実物で固定されていない所は拘束しない」。
初速度(8.2)/INIVEL/TRA車両側の節点グループに 17.8 m/s(64 km/h)のように与える。単位換算ミスの定番ポイント。
剛体壁(8.2)/RWALL無限平面・有限平面などを選択。摩擦係数もここで。
終了時間(8.3)/RUN(Engine)前突なら 0.12〜0.15 s。
出力頻度(8.3)/TFILE(細かく)//ANIM/DT(粗く)「グラフは細かく、絵は粗く」をカード2枚で実装。
質量スケーリング許容(8.3)/DT/NODA/CST安全係数と目標Δt。MAS.ERR監視とセット(第4章)。

初期貫入チェック(本章のPOINT)はStarterが自動で行い、警告として報告します——Starterの .out のWARNINGを読み飛ばさないこと。→ 第11章

✏ ミニ演習 8 ── 条件設定の穴埋め

「時速64kmで剛体壁に前面衝突する車両(質量1400kg)」の解析条件を設定したい。空欄を埋めよ。

  • 車両全節点への初速度:( A )m/s(進行方向)
  • 車両の拘束条件:( B )
  • 壁のモデル化:( C )
  • 終了時間の目安:( D )ms
解答を見る

A:17.8 m/s(64 km/h ÷ 3.6)。単位換算を忘れると64 m/s=時速230kmの大事故解析になります。

B:拘束なし(自由体)。車はどこにも固定されていません。初速度と慣性、壁との接触だけで運動が決まります。タイヤと路面の摩擦を入れる場合も「拘束」ではなく接触で表現します。

C:剛体壁(rigid wall)。変形しない相手は剛体壁が最も安価で頑健。オフセット衝突の変形バリアなら第6章のハニカム材料でモデル化します。

D:120〜150 ms。車体の変形とリバウンドが概ね完了し、加速度パルスと侵入量が出そろう長さです。

実務・検証編 ─ 第9章 ★重要

後処理と検証 —— 結果を信じてよいか

学習目標
「計算が回った」と「結果が正しい」の間にある検証プロセス、特にエネルギーバランスの読み方を身につける。
前提知識
第2章(保存則)、第4章(質量スケーリング)、第5章(接触)、第7章(アワーグラス)。
読了目安
約25分

9.1 エネルギーバランス —— 最強の健全性チェック

陽解法の結果を受け取ったら、変形アニメーションを眺める前にエネルギーの時刻歴を見ます。系の全エネルギーは、種類を変えながらも総和が保存するはずです:

KEY EQUATION ── エネルギーバランス
Ekin + Eint + Ehg + Econtact + EslidingEtotal = 一定(+外部仕事)

読み方:Ekin:運動エネルギー(衝突前はこれがほぼ全部)、Eint:内部エネルギー(弾性ひずみ+塑性仕事。衝突が進むと運動Eがここへ流れ込む)、Ehg:アワーグラスエネルギー(人工物:第7章)、Econtact:接触ばねに蓄えられたエネルギー、Esliding:摩擦による散逸。総和が時間によらず一定なら、計算は数値的に健全です。

健全な前面衝突解析なら、グラフはこう読めます:運動エネルギーが減った分だけ内部エネルギーが立ち上がり(エネルギーの引っ越し)、アワーグラス・接触エネルギーは床を這う程度、総和は水平な直線。

図9-1:エネルギー時刻歴の読み方(マウスを乗せると数値を表示)。健全例:運動E(青)の減少分が内部E(橙)へきれいに移り、総和(グレー破線)は水平。異常例:30ms付近からアワーグラスE(マゼンタ)が急伸して総和が膨らんでいます——どこかの部品が偽の変形モードで崩れているサイン。このグラフ1枚で解析の信頼性の大半が判定できます。

チェックの定量目安(いずれも経験則としてよく使われる値):

9.2 主要な出力量 —— 何を評価するのか

9.3 実験との相関 —— 何をもって「合った」と言うか

モデルの信頼性は実験との突き合わせで決まります。相関にはレベルがあります:

  1. 定性的相関 —— 変形モードが同じか。潰れの順序・折れの位置を高速度カメラ映像・事後の車体と見比べる。まずここから。
  2. 定量的相関 —— 加速度波形のピーク値・タイミング、侵入量、エネルギー吸収量の数値比較。波形類似度の指標(相関係数やISO/TS 18571のようなスコア)を使うこともあります。

相関が取れたモデルは、法規試験(各国の衝突安全基準)やアセスメント(NCAPなど市販車の安全性能評価プログラム)に向けた設計検討の土台になります。相関の取れていないモデルでの絶対値議論は禁物——ただし設計案AとBの相対比較なら、同じ癖を共有するぶん意味を持つことが多い、という使い分けも実務の知恵です。

9.4 よくある失敗カタログ

症状典型的な原因関連章
総エネルギーが増えていくアワーグラスの暴走、接触の発振、剛性の高すぎるペナルティ第5・7章
部品同士がすり抜ける接触の定義漏れ、自己接触の未設定、シェル板厚を超える高速貫入第5章
開始直後に部品が吹き飛ぶ初期貫入への過大なペナルティ反力第8章
結果が実験より柔らかすぎるひずみ速度依存性の欠落、接合部(スポット溶接)の弱すぎるモデル第6章
計算が異常終了(要素の裏返り)質量スケーリング過多、破壊ひずみ未設定のまま極限まで潰れた要素第4・6章
同じ入力なのに結果が毎回微妙に違う並列計算の加算順序による丸め差が座屈分岐で増幅(カオス性)。異常ではないが、差の大きさは頑健性の指標になる
⚙ OpenRadiossで確かめる

本章のエネルギー検証は、OpenRadiossでは実行中からリアルタイムにできます。

  • ERROR列(Engineの.out) —— エネルギー収支の誤差が毎サイクル表示されます。0%付近から小さな負側(散逸側)へゆっくり動くのが健全。正側へ増え続けたら9.1の「エネルギーが湧く」状態で、その場で計算を止めて調べる価値があります。目安±5%。
  • I.ENERGY / K.ENERGY 列 —— 図9-1の「運動E→内部Eの引っ越し」が数字で流れます。
  • 部品別の内訳 —— /TH/PART で出力したTファイルを th_to_csv でCSV化し、図9-1を自分の解析で描き直します(第11章にPython/uvでの手順)。アワーグラスEの部品別チェック(第7章)もこのデータで。
  • MAS.ERR列 —— 質量スケーリングの追加質量。9.1のチェックリスト「数%以内」をここで確認。
  • 再現性 —— 9.4の「同じ入力なのに結果が微妙に違う」は、/PARITH/ON を指定すると並列でも加算順序が固定され、完全な再現性が得られます(デバッグ時に有効)。
✏ ミニ演習 9 ── エネルギーグラフの健全性判定

Q1. 総エネルギーが一定、運動Eが減った分だけ内部Eが増加、アワーグラスEは内部Eの3%。この解析は?

教科書どおりの健全なエネルギー収支です。次の段階(変形モード・実験相関)の評価に進めます。

Q2. 総エネルギーが40ms以降に初期値の115%まで単調増加している。この解析は?

閉じた系でエネルギーは湧きません。アワーグラス制御や接触の人工的な力が仕事をしている=どこかの変形や接触が数値的に破綻しています。まずアワーグラスEと接触Eの内訳、次に部品別エネルギーで発生源を特定します。

Q3. 接触エネルギーが途中から大きく負に沈んでいる。疑うべきは?

大きな負の接触エネルギーは、貫入が解消されないまま進行している(接触が抜けている)典型サインです。該当時刻の貫入をコンター表示で確認し、接触定義・メッシュ・板厚設定を見直します。
実務・検証編 ─ 第10章

応用と事例 —— 学んだ部品が組み上がる場所

学習目標
これまでの各章の要素技術が、実際の開発現場でどう組み合わさるかを俯瞰し、次の学びへの道標を得る。
前提知識
第1〜9章(特に4・5・6・9章)。
読了目安
約20分

10.1 自動車の衝突モード —— 前面・側面・ロールオーバー

どのモードでも仕事の骨格は同じです:荷重経路を設計し(第8章)、部材を意図どおり潰し(第6・7章)、エネルギー収支と実験相関で検証する(第9章)

10.2 乗員保護 —— ダミーとエアバッグ

車体だけ守っても意味がありません。最終的な評価対象は乗員です。

10.3 他分野への展開 —— 落下試験・鳥衝突

10.4 これからの学びの道標

  1. 手を動かす —— オープンソースのOpenRadiossなら今日から無料で始められます(→第11章で実行から結果分析まで実践します)。商用ではLS-DYNAやAltair Radiossの学生ライセンス・無償枠も。まず「箱を壁にぶつける」「筒を軸圧壊させる」だけのモデルで、Δt・接触力・エネルギー収支を自分の目で確認するのが最短の学びです。
  2. 理論を深める —— 非線形有限要素法の教科書(Belytschko らの『Nonlinear Finite Elements for Continua and Structures』が定番)で、本サイトが省いた定式化(更新ラグランジュ、応力の客観性)を補う。
  3. 規格・評価を知る —— 各国の衝突安全法規、NCAP系アセスメントのプロトコルを読むと、「解析で何を出力すべきか」の解像度が上がる。
  4. 検証文化を身につける —— V&V(Verification & Validation)の考え方。第9章の内容を体系化した分野です。

総合ミニ演習 —— 全章横断クイズ

✏ ミニ演習 10 ── 総仕上げ

Q1. 衝突解析で陽解法が選ばれる最大の理由は?

精度が高いからでも、Δtが自由だからでもありません(むしろΔtは束縛されます)。1ステップが軽く、接触・座屈・破壊で計算が止まらない頑健さが本質です(第3章)。

Q2. メッシュの一部に0.5mmの微小要素が1個ある。全体への影響は?

CFL条件は最小要素で決まり、その Δt で全要素が歩かされます(第4章)。静解析との最大の感覚差です。

Q3. 解析結果が実験より「柔らかく」潰れすぎる。第6章の観点で最初に疑うのは?

高ひずみ速度での硬化(動的倍率1.5〜2倍)が抜けると系統的に柔らかくなります。接合部モデルの強度と並ぶ2大容疑者です。

Q4. 納品前の結果チェック、最初に開くべきグラフは?

アニメが「それらしく」見えても、エネルギーが湧いていたら全部やり直しです。数値的健全性の確認が最優先——第9章の結論であり、本サイトで一番持ち帰ってほしい習慣です。

Q5. ペナルティ接触の剛性を上げると起こることの正しい組み合わせは?

硬いばねは貫入を減らす一方で高振動数を持ち込み、安定条件(第4章)を厳しくします。第5章と第4章の連結点です。
実践編 ─ 第11章

OpenRadiossで実践 —— 実行から結果分析まで

学習目標
オープンソース陽解法ソルバー OpenRadioss で、入力デッキの構造を理解し、解析を実行し、ログ・時刻歴・アニメーションから結果の妥当性を自分で判定できるようになる。
前提知識
第4章(Δt・質量スケーリング)、第5章(接触)、第6章(材料)、第9章(エネルギー検証)。コマンドライン操作の初歩。
読了目安
約30分(+実習は半日)

11.1 OpenRadiossとは

OpenRadioss は、商用衝突ソルバー Altair Radioss のソースコードが2022年にオープンソース化されたものです。つまり第1章で名前を挙げた「本物の衝突解析ソルバー」を、無料で・ライセンスの制約なく・今日から動かせます。本サイトで学んだ理論——中心差分法、CFL条件、ペナルティ接触、Johnson-Cook材料、アワーグラス制御——がすべて実装されており、理論を実地で確かめる教材として最適です。

11.2 入力デッキの構造 —— 理論と設定項目がつながる瞬間

OpenRadioss の入力は、/キーワード で始まるブロックを並べたテキストファイル(拡張子 .rad)です。StarterファイルMODEL_0000.rad:モデル定義)とEngineファイルMODEL_0001.rad:実行制御)に分かれます。構造を眺めてみましょう(書式は簡略化しています。正確な桁位置・パラメータはマニュアルを参照)。

#---- MODEL_0000.rad ─ Starter(モデル定義)----------------
/BEGIN                 ← タイトル・単位系(kg, m, s など)の宣言
/NODE                  ← 節点座標(第3章:離散化の実体)
/SHELL/1               ← シェル要素の結合情報(第7章)
/PART/1                ← 部品=材料+プロパティの組
/MAT/LAW2/1            ← 弾塑性材料。Johnson-Cook型 A, B, n, C(第6章)
/PROP/SHELL/1          ← 板厚・積分点数・Ishell(要素定式化、第7章)
/INTER/TYPE7/1         ← ペナルティ接触。自己接触対応(第5章)
/RWALL/1               ← 剛体壁(第8章)
/INIVEL/TRA/1          ← 初速度(第8章)
/BCS/1                 ← 拘束条件(第8章)
/END

#---- MODEL_0001.rad ─ Engine(実行制御)-------------------
/RUN/MODEL/1
  0.150                ← 終了時間 150 ms(第8章)
/DT/NODA/CST
  0.9  1.0E-6          ← 安全係数0.9・目標Δt。質量スケーリング(第4章)
/TFILE
  1.0E-5               ← 時刻歴(Tファイル)の出力間隔:細かく
/ANIM/DT
  0.0  1.0E-3          ← アニメーションの出力間隔:粗く(第8章)

本サイトの各章と設定項目の対応を一覧にします。この表が「理論→実務」の翻訳表です。

本サイトの章OpenRadiossの設定意味
第4章 時間積分・Δt/DT/NODA/CST目標Δtを維持するよう節点質量を自動追加(質量スケーリング)。追加質量は出力で必ず監視。
第5章 接触/INTER/TYPE7(汎用・自己接触可)、/INTER/TYPE11(エッジ接触)ペナルティ法。摩擦係数 μ(Fric)、接触剛性のスケール係数もここ。
第6章 材料/MAT/LAW2(Johnson-Cook型)、/MAT/LAW36(硬化曲線を表形式で入力・ひずみ速度別の曲線群)降伏・硬化・ひずみ速度依存性。
第6章 破壊/FAIL/JOHNSON など破壊条件と要素削除。
第7章 要素・アワーグラス/PROP/SHELLIshell=24(QEPH)低減積分+改良アワーグラス制御の定式化。迷ったらQEPHが定番。
第8章 境界条件/INIVEL/BCS/RWALL/GRAV初速度・拘束・剛体壁・重力。
第9章 検証Engine出力(.out)・/TH/ANIMエネルギー収支・時刻歴・変形アニメ。
⚠ 単位系は自己責任

OpenRadioss は単位を検査しません。/BEGIN で宣言した単位系(例:kg–m–s–Pa、または Mg–mm–s–MPa)を節点座標・材料定数・初速度のすべてで貫いてください。第8章で触れた「単位系ミスは衝突解析の古典的事故」は、ここで現実になります。

11.3 主要キーワードの設定項目リファレンス

サンプルデッキを開いたとき「この数字は何を意味するのか」が読めるように、結果を左右する主要パラメータを理論との対応付きで押さえます(全項目の正確な定義は OpenRadioss Reference Manual を参照。カード内の桁位置・省略時の既定値はバージョンで異なることがあります)。

(1) 材料:/MAT/LAW2(Johnson-Cook型 弾塑性)

設定項目意味解説・理論との対応
ρi初期密度音速 c=√(E/ρ) を通じてΔtにも効く。質量スケーリングの追加質量はこの値に上乗せされる(第4章)。
E, νヤング率・ポアソン比弾性域の剛性。単位系(Pa か MPa か)に最注意。
A, B, n降伏応力・硬化係数・硬化指数硬化則 σ = A + B εpn そのもの(第6章6.1)。
σmax, εmax応力上限・破断ひずみεmax 到達で要素削除(第6章6.4)。メッシュサイズとセットで校正する値。未設定だと要素は無限に潰れ、異常終了の原因にも。
C, ε̇0ひずみ速度係数・基準ひずみ速度速度硬化項 [1 + C ln(ε̇/ε̇0)](第6章6.3)。省略すると速度効果ゼロ=「潰れすぎる解析」の典型原因(第9章9.4)。

実測の硬化曲線がある場合は /MAT/LAW36(PLAS_TAB)が素直です:真応力−塑性ひずみ曲線を関数(/FUNCT)として渡し、ひずみ速度ごとに複数の曲線を与えれば表引きで速度依存を表現できます。破壊をより精密に扱うときは /FAIL/JOHNSON 等の破壊カードを材料に重ねます。

(2) シェル要素:/PROP/SHELL

設定項目意味解説・理論との対応
Thick板厚接触ギャップの基準にもなる(下記TYPE7)。
Ishell要素定式化24(QEPH)が現在の定番:低減積分+改良アワーグラス制御(第7章7.2)。1/2系はBT型+従来のアワーグラス制御。
N板厚方向の積分点数曲げ+塑性を追うなら5点が定番(第7章7.1)。1点だと膜挙動のみ。
hm, hf, hrアワーグラス係数(膜・曲げ・ねじり)大きいほど抑制は強いが要素が人工的に硬くなる(第7章)。まず既定値で流し、アワーグラスEで判断。
Ithick板厚更新フラグ大変形で板厚変化を追跡するか。衝突ではONが一般的。
Iplas塑性アルゴリズム板厚方向の応力反復の扱い。精度重視なら反復あり。

(3) 接触:/INTER/TYPE7

設定項目意味解説・理論との対応
Surf1 / Surf2接触面(従・主)の指定車体全体を1つのサーフェスにして自己接触させるのが定石(第5章5.5 単一面接触)。
Stfac接触剛性のスケール係数第5章5.3の k。大きい→Δt低下・力の発振/小さい→貫入増。既定値1.0から動かす前に貫入の根本原因を疑う
Fric摩擦係数 μクーロン摩擦(第5章5.6)。鋼板同士なら0.1〜0.2が目安。
Gapmin接触ギャップTYPE7は「ギャップに入ると反力が立ち上がる」方式で、接近するほど剛性が増す非線形ペナルティ。板厚オーダーで設定。
Inacti初期貫入の扱い6 が定番:初期貫入分だけギャップを局所的に縮めて、開始直後の爆発的反力を防ぐ(第8章「初期貫入」の実装レベルの対策)。
Istf剛性の算出方法接触相手の要素剛性から自動計算する方式の選択(第5章5.3「相手と同程度の硬さ」)。

板のフチ同士が当たる問題(エッジ接触)では /INTER/TYPE11 を併用します。TYPE7は節点対面の接触なので、エッジ対エッジのすり抜けは拾えません。

(4) 実行制御と出力(Engineファイル)

カード意味解説・理論との対応
/RUN終了時間前突なら120〜150ms(第8章8.3)。
/DT/NODA/CSTΔTsca(安全係数)と ΔTmin(目標Δt)安全係数は0.9が通例(第4章のCFL条件×余裕)。Δtが目標を下回る節点に質量を自動追加=質量スケーリング。出力のMAS.ERRとセットで運用(第4章4.5)。
/TFILE時刻歴(Tファイル)の出力間隔細かく(第8章「グラフは細かく」)。
/ANIM/DTアニメーションの出力間隔粗く(「絵は粗く」)。1ms間隔で衝突全体が約120コマ。
/ANIM/ELEM/EPSP/ANIM/ELEM/VONM相当塑性ひずみ・von Mises応力のコンター出力変形モードと塑性化の広がりの確認(第9章9.2)。
/TH/PART/TH/NODE/TH/RWALL部品別エネルギー・節点応答・剛体壁反力の時刻歴部品別の内部E/アワーグラスE(第7章の部品別10%チェック)、節点加速度=クラッシュパルス、壁反力=総荷重(第9章)。
/PARITH/ON並列計算でも加算順序を固定実行のたびに結果が微妙に変わる現象(第9章9.4・FAQ)を止め、再現性を保証。デバッグ時に有効。
POINT ── 勉強法

公式サンプルのデッキをエディタで開き、この表の項目を1つずつ探して「どの章の理論に対応するか」を書き込んでいくのが最短の演習です。全部見つかったら、あなたはもう入力デッキが「読める」状態になっています。

11.4 実行とログの読み方 —— 理論が数字になって流れる

実行は2段階です:

# ① Starter:モデル読み込み・整合性チェック・初期貫入チェック
starter_linux64_gf -i MODEL_0000.rad -np 1
# ② Engine:時間積分の実行(-np で並列数を指定)
engine_linux64_gf -i MODEL_0001.rad -np 4

Starterの出力(MODEL_0000.out)では、部品ごとの質量、警告(初期貫入!)、エラーを確認します。WARNINGを読み飛ばさないのが第8章で学んだ試走の作法です。

Engineの出力(MODEL_0001.out)には、計算の「心電図」ともいえるサイクル表が流れます:

 CYCLE    TIME      TIME-STEP  ELEMENT        ERROR  I.ENERGY   K.ENERGY   ...  MAS.ERR
 40000  4.002E-02  8.91E-07  SHELL   3021    -1.2%  1.85E+04   6.11E+03        2.1E-03

11.5 結果ファイルと後処理 —— グラフと動画にする

Engineは主に2種類の結果を吐き出します。

ファイル中身後処理の手順
MODELT01(Tファイル) 時刻歴データ:節点変位・速度・加速度、部品別エネルギー、接触力、剛体壁反力…(/THブロックで指定) 同梱ツール th_to_csv でCSVに変換 → Excel や Python(pandas + matplotlib)でグラフ化。
MODELA001, A002, …(Animationファイル) コマごとの変形形状・応力・塑性ひずみのコンター(/ANIMで指定) 同梱ツール anim_to_vtk でVTKに変換 → 無償の ParaView で変形アニメ・コンター表示。

Pythonでの時刻歴プロットは、たとえば uv を使えば環境構築なしで1コマンドです:

th_to_csv MODELT01                       # T01 → CSV
uv run --with pandas --with matplotlib plot_energy.py
# plot_energy.py:CSVを読み、運動E・内部E・アワーグラスE・総和を1枚に描く
# (第9章 図9-1を、自分の解析結果で再現する)

最初に描くグラフはエネルギーバランス——第9章の結論を、そのまま自分の解析で実行します。総和が水平か、アワーグラスEが内部Eの10%未満か、接触Eが負に沈んでいないか。この3チェックが習慣になれば、あなたの後処理はもう実務レベルです。

11.6 演習:箱型ビームの軸圧壊 —— 最初の1本

公式サンプルにもある定番題材「薄肉箱型ビームの軸圧壊(クラッシュボックスの単品版)」を最初の1本に推奨します。進め方:

  1. サンプルをそのまま実行し、正常終了・所要時間・出力ファイル一式を確認する。
  2. ログで理論を確認:Δt支配要素はどこか(第4章)/MAS.ERRはいくらか/ERRORの推移は健全か(第9章)。
  3. エネルギーバランスを描く:運動E→内部Eの引っ越し、アワーグラスEの割合(第7章の10%基準で部品別にも)。
  4. ParaViewで変形モードを見る:蛇腹座屈がきれいに出ているか。折り重なる面がすり抜けていないか(第5章:自己接触)。
  5. 1つだけ変えて再実行:板厚±20%、初速度×2、Ishellの変更、ひずみ速度項のON/OFF(第6章)——結果の変化を予想してから流し、予想と比べる。この「予想→実行→答え合わせ」のループが、教科書を実力に変えます。
✏ ミニ演習 11 ── 実行ログを診断する

Q1. Engine出力の ERROR 列が 0% → +3% → +8% と単調増加している。判断は?

健全な解析ではERRORは0%付近から小さな負側(散逸側)へ推移します。正側への単調増加は数値的にエネルギーが生成されている状態——第9章のエネルギー検証と同じ判定基準です。

Q2. TIME-STEP列のΔtが想定の1/10で、ELEMENT列には毎サイクル SHELL 3021 が表示される。まず何をする?

Δtを支配する要素が固定されているのは典型的な「1個の微小要素が全体を人質に取る」状況(第4章4.4)。メッシュ修正か、/DT/NODA/CSTによる局所質量スケーリング(追加質量の監視付き)で対処します。並列数はΔtを変えません。

Q3. MAS.ERR が終了時に 0.15(15%)に達していた。この解析の速度・加速度の結果は?

運動エネルギーも接触力も慣性力も質量に比例します。15%の追加質量は結果の偽造レベル(目安は数%以内:第4章)。目標Δtを緩めるかメッシュを直して再実行すべきです。

Q4. 材料定数をMPa系で入れたのに、節点座標はm、密度はkg/m³で作ってしまった。ソルバーは?

ソルバーは単位を知りません(第8章・11.2)。「計算が最後まで回った」ことと「結果に意味がある」ことは別——本サイトを貫くテーマの、最も安上がりで最も痛い実例です。
付録

用語集・記号一覧・FAQ・参考文献

A. 用語集

陽解法(Explicit method)
現在時刻の情報だけで加速度を求め、連立方程式を解かずに時間を前進させる解法。1ステップが軽く強非線形に頑健だが、時間刻みに上限(CFL条件)がある。→第3・4章
陰解法(Implicit method)
次の時刻の釣り合い式を連立方程式として解く解法。時間刻みを大きく取れるが、1ステップが重く、強非線形で収束困難に陥りやすい。→第3章
CFL条件(Courant条件)
陽解法の安定条件。時間刻みは「応力波が最小要素を横切る時間」以下でなければならない:Δt ≤ Le/c。→第4章
中心差分法
速度を半ステップずらした時刻で定義する2次精度の時間積分法。陽解法ソルバーの標準。→第4章
質量スケーリング
時間刻みを支配する要素の密度を人為的に増やしてΔtを稼ぐ手法。慣性力を偽る副作用があり、追加質量の監視が必須。→第4章
ペナルティ法
接触面への貫入量δに比例した反力 F = kδ で押し戻す接触処理。微小貫入を許す代わりに連立方程式が不要。→第5章
単一面接触(自己接触)
指定範囲のすべての面同士を接触候補とする定義。座屈で自分自身に折り重なる衝突解析では事実上必須。→第5章
ひずみ速度依存性
変形速度が速いほど降伏応力が上がる材料の性質。Johnson-CookやCowper-Symondsの構成則で表現する。→第6章
要素削除(element erosion)
破壊条件を満たした要素をモデルから取り除く破断の表現法。質量・エネルギーが消えるため使用量の監視が必要。→第6章
低減積分
要素の積分点を減らして計算を高速化する手法。副作用としてアワーグラスモードを許す。→第7章
アワーグラスモード
低減積分要素で生じる、積分点にひずみを生まない砂時計状の偽変形(ゼロエネルギーモード)。人工的な制御力で抑える。→第7章
エネルギーバランス
運動・内部・アワーグラス・接触・すべり等のエネルギーの総和が保存しているかの検証。陽解法結果の健全性チェックの第一歩。→第9章
クラッシュパルス
衝突中の車体減速度の時刻歴波形。乗員保護設計への入力となる。→第9章
HIC(頭部傷害基準値)
頭部合成加速度の時刻歴から計算される傷害指標。傷害値の代表例。→第9・10章

B. 記号一覧

記号意味単位(SI)主な登場章
M, C, K質量行列・減衰行列・剛性行列第2・3章
u, , ü節点の変位・速度・加速度ベクトルm, m/s, m/s²第2〜4章
Fext, Fint外力ベクトル・内力ベクトルN第3・4章
Δt, Δtcr時間刻み・臨界時間刻みs第4章
Le(最小)要素長m第4章
c弾性波速度(音速)= √(E/ρ)m/s第4章
Eヤング率Pa第2・4章
ρ密度kg/m³第4章
σ, σn真応力・公称応力Pa第2・6章
ε, εn, εp真ひずみ・公称ひずみ・相当塑性ひずみ第2・6章
ε̇ひずみ速度s⁻¹(1/s)第6章
δ接触の貫入量m第5章
k接触剛性(ペナルティ剛性)N/m第5章
μ摩擦係数第5章
A, B, n, C, mJohnson-Cookモデルの材料定数第6章
C, pCowper-Symondsモデルの材料定数C: s⁻¹第6章

C. よくある質問(FAQ)

なぜ Δt はユーザーが決められず「勝手に」決まるのか?

陽解法(中心差分法)は条件付き安定だからです。応力波が1ステップで1要素を飛び越えない、というCFL条件(第4章)を破ると解が数値的に発散するため、ソルバーは毎ステップ全要素の臨界値を計算し、最小値(×安全係数)で自動的に進みます。ユーザーが制御できるのはΔtそのものではなく、Δtを決める要素サイズ・材料・質量スケーリングです。

質量スケーリングは使ってよいのか?

「監視付きなら実務上有効、無監視なら結果の偽造」です。追加質量が全体・部品質量の数%以内で、かつ高速で運動・変形する部位に集中していないことを毎回確認してください。準静的解析では比較的大胆に使えますが、その場合も運動エネルギーが内部エネルギーに対して十分小さいこと(目安5%以下)の確認が必要です(第4・9章)。

陽解法で静的な問題(ゆっくり押す試験)を解いてよいのか?

広く行われています(準静的解析)。ただし計算時間を稼ぐため実際より速く押す(または質量スケーリングを効かせる)ので、慣性の影響が混入しない範囲に留めることが条件です。判定基準はやはりエネルギー:運動エネルギーが内部エネルギーに比べて常に微小(目安5%未満)であれば準静的とみなせます(第3・9章)。

メッシュを細かくすれば必ず正確になるのか?

応力・変形の解像度は上がりますが、(1)計算時間が急増する(サイズ半分で約8倍:第4・8章)、(2)破断ひずみはメッシュサイズ依存なので材料の破壊パラメータを校正し直す必要がある(第6章)、という2つの理由で「細かいほど良い」とは言えません。メッシュサイズは材料データの校正条件とセットで管理するのが実務です。

解析が途中で落ちた(異常終了した)。まず何を見る?

①エラーメッセージで落ちた要素・節点の番号を特定 → ②その時刻直前の変形アニメで局所の異常(要素の裏返り・吹き飛び)を確認 → ③エネルギー時刻歴で異常の始まった時刻を特定、が定石です。原因の多くは初期貫入、接触の抜け、破壊未設定のまま極限まで潰れた要素、過大な質量スケーリングです(第8・9章)。

同じ入力なのに実行のたびに結果が少し違うのはバグ?

並列計算では加算順序が実行ごとに変わり、丸め誤差レベルの差が生じます。座屈のような分岐現象はこの微小差を巨視的な差に増幅することがあります。バグではありませんが、差が大きい場合は「その設計は座屈モードが不安定」という頑健性のシグナルとして読むべきです(第9章)。多くのソルバーには再現性を強制するオプション(並列でも加算順序を固定する設定)もあります。

D. 参考文献・次の一歩